手のひらに吸いつてくる肌は驚くほどに冷たい。
手に余る弾力を楽しみながら、ベルナドットは胸の谷間に顔を埋める。微かに触れた唇と、ベルナドットの前髪が擽る感触にセラスは、う、と微かに呻いて身体を強張らせた。
ベルナドットは小さく歪ませた唇から舌を突き出すと、冷ややかな肌の上を走らせる。
「んうっ!?」
硬くなった先端をペロリと舐めれば、ベルナドットの髪の中に埋もれているセラスの手が、その感覚から逃れようとするかのようにベルナドットの頭を力なく押し留める。
どうやら、乳首は弱いらしい。
ベルナドットは唇の中にすっぽりと乳首を含み、舌先を何度もその先端に擦り付ける。そうしながら、左の指先で対の乳首を軽く弾いた。
「う、う、う!」
セラスはきつく唇を噛みしめ、必死に声を殺そうとしている。
息すら止めているんじゃないかと思わせるセラスの様子に、ベルナドットは小さく笑むと、乳首を摘んでいた手をセラスの頬に伸ばした。
「そんなに硬くなんなよ、嬢ちゃん」
「・・・・・だっ、けどっ!」
その言葉途中で、再び乳首を啄ばまれ、セラスの細い肩は深くベッドに沈んだ。

ベルナドットはセラスの胸から顔を離し、上体を少し浮かせた。Tシャツを片手で乱暴に脱いで放り投げると、戦地で培われたしなやかな筋肉が顕わになる。
何一つ我慢などさせたくなかった。全て解き放てばいい。その小さな身体に宿る破壊衝動を快楽の喘ぎに変えて。

ベルナドットはじり、とその身を後退させながらセラスの下肢に手をかける。丈は短いが、厚手のスカートを引き下げれば、それを阻むようにセラスは脚をばたつかせる。その脚を片手で抱え、ベルナドットはセラスの腰を浮かせた。
ジッパーを下ろし、思い切りスカートを引っ張る。予想に反して下着の色は濃い赤だった。スカートに巻き込まれるようにして共に引きずられた下着は、脚の半ばで止まった。セラスは慌てたようにベルナドットの腕から両脚を引き抜くと、秘所を隠すように膝を揃えて折り曲げた。
乱れた上衣に、下半身は脚にぴたりと吸いつくニーソックス一つ。
これはこれでそそる眺めだけどな。
ペロリと唇を一つ舐め、ベルナドットはセラスの膝に絡んだ下着を引き下ろし、右の足を抜く。左の足首にくしゃりと丸まった下着を残したまま、ベルナドットは両の膝に手をかけ、思い切り開く。反射的に閉じようとした脚の間に肩を割り込ませ、誰にも暴かれたことのない秘所に顔を寄せていった。
さり、と微かな音が淡い茂みの上で奏でられた。ぴたりと閉じた合わせ目を少しずつ溶かしていくように、ベルナドットは何度も上下に舌を這わせる。 その度にセラスは大きく息を吐き出しながら、柔らかな内腿を震わせた。

「いっぺん、イってみるか?」
「・・・・え?」
問い返す声に答えることなく、ベルナドットは両手の親指で濡れた合わせ目を押し開いた。
冷やりとした感覚もつかの間、最も敏感な場所に新たに熱が加えられていく。誰の手も触れたことのない、艶やかな真珠の粒を、ベルナドットはその舌で丹念に磨いていった。
「あっ! はっ・・・はっ・・は、あ・・・」
舌先に当たる粒は徐々に硬さと膨らみを増していく。それに合わせてセラスの息遣いもまた、浅く短いものへと変わっていく。
ベルナドットは一定のリズムで舌を上下させながら、処女の体内を探るように浅く指を潜り込ませる。既にとろとろと快楽の証を吐き出し始めていたとは言え、中指の一本ですらきつい。
「え・・・・あ? 何?」
身の内への侵入者の存在を感じたセラスが不安げな声をあげた。
疑問を挟む余地を与えようとせず、ベルナドットは剥き出しになった陰核を唇で挟む。舌先で表面を押さえながら、強くそれを吸った。
「ん・・・・・・あ・・・・あうっ!!」
セラスの唇が震えながら呼気を吐き出す。ベルナドットは挿し入れた指の腹で膣口を撫ぜながら、陰核を何度も吸い上げては離す。
刺激を受ける度に細かく震えていた身体が、やがてその動きを鈍くし始めた。
まるで与えられる快感を全て吸い込んでいくかのように、セラスの腰がゆっくりとベッドに沈んでいく。
「あ・・・・はぁ・・・・はっ・・・・っ」
ベルナドットの指先が動く度に、掻き出される愛液が隠微な音をたてる。
「あっ・・・く、うううぅぅぅぅっっっ!!」
震える拳がシーツを強く握り締める。華奢な首が仰け反る。内腿が引き攣るように震え、やがてセラスの全体が弛緩した。
セラスが達したことを知るや、ベルナドットはベッドの上に膝立ちになる。ズボンの前を開け、下着を引き下ろし、とうに硬くなっていた己を取り出す。
「いくぜ、嬢ちゃん」
返事も待たず、ベルナドットはセラスの脇に片手をつき、もう一方の手で己の幹を握ると、初めて男を受け入れようとする穴に先端をあてがった。
「あ・・・・く、うっっっ」
熱く滾った楔でじわじわと押し広げられていく感覚に、セラスは低く呻き声をあげた。
十分に解されていた所為か、或いは吸血鬼となって痛みに強くなった所為か、苦痛は少ない。ただ、中に張られた糸が切られてしまう様な危うい予感に、セラスは思わず身を捩って逃れようとする。
その身体を、ベルナドットは逃さなかった。両の手首を掴んでベッドに縫いとめる。
「あ、あぁっ!?」
ぷつり、という音をセラスは己の身体の中で聞いた。そして、誰よりも近くにベルナドットの存在を感じた。

入った、な。
ベルナドットは息を吐く。
敏感なままの狭い膣内は、予期せぬタイミングでベルナドットを締め上げてくる。
堪らずに上げそうになった声を噛み殺し、ベルナドットは頭を振る。広い背中で編んだ髪の尾っぽが幾度も跳ねた。
ちょっと、これはやべぇかも。
ゆっくりと身体を揺すり始めながら、ベルナドットは内心、冷や汗をかいた。
「う・・・・あ・・・あ、ふ」
喘ぎ声すら上手く上げられない、その初々しい様子にベルナドットは笑みを浮かべた。
「何も我慢すんなよ、嬢ちゃん」
そう言ってベルナドットは、己をじわりと引き抜いた。
「聞いてる人間は俺達しか――――」
一旦、言葉を切って、ベルナドットは見下ろすセラスに、悪戯めかした笑みを向けた。
「失礼。俺しかいなかったな、人間は」

まさか、吸血鬼と寝ることがあるとはね。しかも処女の。
柔らかく濡れた、だが冷ややかな体内は人間の女のものではない。熱くなった己を宥めるように包み込まれる。それはベルナドットにとっても初めての経験だった。
「んあっっっ!? く、ふあぁぁぁっ!?」
濡れた陰茎を一息に突き入れると、今度ははっきりそれと分かる嬌声がセラスの唇から発せられた。
そうだ、とベルナドットは片側だけの眦を下げる。
「いい声出すじゃねぇか・・・・もっと、聞かせてよ。嬢ちゃん」
そんな己の願いを満たそうとするように、ベルナドットはセラスの細い腰を持ち上げると、一層深くに欲望を叩き込んだ。



「・・・・・少しは落ち着いたか?」
ベッドの背もたれに身体を預け、ベルナドットはすぐ傍に見える金の頭に問いかけた。
セラスは膝を抱えるような格好で、手近にあった毛布を思い切り引き上げ、身体を隠している。お陰でベルナドットはというと、ぎりぎり下腹部が隠れる程度にしか毛布の割り当てがない。
そんなことを気にするでもなく、ベルナドットはベッドの下に手を伸ばすと、脱ぎ捨てたジャケットの中から手探りで煙草を取り出す。
「しかし、アレかね」
何となく火をつける気にもなれず、慰みに口に咥え、上下に振ってみたりする。
「そうやって落ち着いたトコみると、吸血鬼の栄養になるのは血だけじゃないんかね?」
何のことかと、小さく右に揺れた頭に、ベルナドットは笑みを落とす。
「セーエキでもいのかもな。さっき結構思い切り出しちまったもんよ、嬢ちゃんの中に」
セラスはビクリと頭を揺らす。
「結構濃厚だったと思うぜ? ホラ、最近、演習だ何だで品行方正にしてたから、俺」
その頭が小刻みに震えだす。
「どう? 美味かった? 俺のセーエキ?」
暢気な問いかけが終わるやいなや、セラスはがばりと顔をあげ、ベルナドットに向き直る。
「そっ・・そ、そんなこと何回も聞かないで下さいっっっ!!!」
真赤になって捲し立てる顔を見て、ベルナドットはニヤリと目を細めた。
「ようやくいつもの嬢ちゃんに戻ったな」
ベルナドットはセラスの腕を掴み、ぐいと引き寄せる。勢い、ベルナドットを跨ぐ格好で、セラスは幾つもの傷跡が残る胸に両手をついた。
「・・・・・ベルナドットさん」
セラスは片側だけしかない男の瞳を見上げる。
「どうして・・・・・ここまでしてくれるんですか? ・・・・・同情、ですか?」
「んな訳あるかよ」
ベルナドットは渋い顔をセラスに向けると、人差し指でその額を小突いた。
「傭兵舐めんなよ。同情心なんてんな高尚なもん持ち合わせてねぇさ」
じゃあ、と言いさしたセラスの尻に、ベルナドットは硬さを取り戻した自身を擦りつけた。
「同情で、こんなんならねぇと思わね?」
それが何か、すぐに理解したセラスは一気にその頬を赤くする。
「心底、アンタが欲しくなった。それだけさ」
という訳で、とベルナドットは笑う。
「もっぺん入れたいんだけど。いいか? セラス?」
セラスは目を見開く。初めて名を呼ばれた。セラスという名の自分が欲しいと言ってくれた。そのことがとてもくすぐったくて、そしてとても嬉しかった。
セラスは微笑み、それから困ったように、朱のさした眦でベルナドットを愛らしく睨む。
「そんなこと・・・・いちいち聞かないで下さい」
「そいつァ悪かった」
柔らかな尻を両手で持ち上げ、軽く割り広げるようにしながらベルナドットは己の上にセラスを誘う。
つぷり、と濡れた音をたて、ベルナドットの陰茎がセラスの中に飲み込まれていく。
「あ、あぁっ・・・ああぁ、ん」
「大分、上手く鳴けるようになってきたな」
ベルナドットは隻眼を細め、艶を帯びた声を上げるようになってきた喉を指先で撫ぜる。
「今度は嬢ちゃん、自分で動いてみな」

ベルナドットの胸についた手でバランスをとりながら、セラスはぎこちなくも身体を上下させる。
肉と肉が擦れ合う度に、交じり合った体液が掻き回され、押し出され、粘る水音は絶え間なく結び目からあがる。セラスの中から溢れた液体はベルナドットの幹を伝い、腿までを濡らしている。
「や・・・・どうし、よ・・・・・変な、音、が・・・っん!」
戸惑いと恥じらいに俯くセラスの背中から腰を、ベルナドットの熱い手のひらが撫で下ろしていく。
「さっきも思ったが、どうやら濡れ易いみたいだからな、嬢ちゃんは」
「だから、そういうことを言わないで・・・っ!」
それに、とベルナドットは口の端を歪めた。
「凄ぇやらしくて、凄ぇ興奮するさ」
「―――――ああっっ!!?」
持ち上げかけた腰を、思い切り引き下ろされた。熱い塊が身体の奥深くを強く突き上げ、そのまま止まった。セラスは、自分の最も深い場所にまるで蓋するように吸いつくベルナドットを感じた。
「ね・・・・・ベルナドットさん?」
大きく息を吐いて、その波をやり過ごすと、セラスはおずおずと口を開いた。
何だ、と言ってベルナドットは笑う。ヘルシングの邸宅で、演習場で、当たり前のように笑って話をしていた男と、今は裸で繋がっている。その事実がどうにも気恥ずかしく、セラスは合わせた視線をついと下げた。
「・・・・・私の身体・・・・変じゃ、ないですか?」
「?」
セラスの目の前で、首から胸へと垂れた編み髪が揺れる。
「普通の女の人と、同じ?」

そんなことを気にしてたのか。ベルナドットは口元に微笑を浮かべる。
「あー。確かに普通じゃねぇかもなぁ。嬢ちゃんの身体は」
「えぇっ!?」
驚いた大きな瞳を覗きこみながら、ベルナドットはペロリと指先を舐めると、繋がった箇所のすぐ上、はちきれそうなまでに膨らんでいる陰核を指の腹で擦った。
「あぁぁぁぁぁっ、ん!!」
その途端、細い腰を震わせながら、セラスの中はきつくきつくベルナドットを締め付ける。
「う・・・・く」
耐え切れずに声を漏らしたベルナドットは、セラスに苦笑を向けた。
「ホラな。凄ぇよくて、オニーサンもうイかされそう」


それから幾度交わったかベルナドットは覚えていない。餓鬼の頃でもこんな風に女にのめり込んだことはなかったというのに。
シーツから性臭が漂うほどに互いの体液を与え合い、流石にもうもたないと思った頃に、セラスが突然電池が切れたかのように崩れた。
「お・・・おい! 嬢ちゃん!?」
ベルナドットが慌てたように胸に抱いた身体を揺すれば、セラスは辛そうに目を瞬かせた。
「・・・今、何時・・・ですか?」
ベルナドットは腕に巻いた時計に目をやる。
「あ? 今か? えぇと・・・・4時ちょい過ぎ、だな」
やっぱり、と言って意識を遠のかせたセラスを、ベルナドットは呼び戻す。
「どうした? 嬢ちゃん!?」
焦るベルナドットを半眼の瞳で見上げ、セラスはもごもごと口を動かした。ベルナドットはその口元に耳を寄せる。
「・・・・・眠いんです・・・・とっても」
「は?」
「ゴメンなさ・・・・もう無理・・・・お願い、します・・・・雨戸、閉めて――――」
そう言い残すと、セラスの身体からくたりと力が抜けた。
「・・・・・おい、マジ寝たよ。この女」
早くも気持ちよさ気な寝息をたてている女吸血鬼を見下ろして、ベルナドットは暫し呆然とした後、忍び笑いを零した。


まるで猫の子のように身を丸めて眠るセラスに毛布をかけ、ベルナドットはベッドを降りた。
ジャケットの中から携帯と煙草を取り出して、窓際に向かう。
霧に煙る外気は、汗ばんだままの身体を冷やりと包む。ベルナドットは煙草に火をつけながら、がらんどうの村を静かに見下ろした。
紫煙を燻らせながら、携帯を操る。テンコール目で通話状態となった。
「モーニングコールには少し早すぎやしませんか? 隊長」
憮然とした副官の声に、ベルナドットは小さく吹き出し、悪いなと告げた。

「お嬢ちゃんはどうしました?」
二、三の連絡事項を片付けると、副長は既に事情を聞き及んでいたらしく、そう尋ねてきた。
「宥めすかして、ようやく今寝たさ」
「アンタのことだ。身体で宥めたんじゃないのか?」
付き合いも長い副長は流石によく分かってらっしゃる。鋭いその指摘に、ベルナドットはぐっと息を飲む。一瞬の沈黙の後、電話の向こうで副長は声を殺しながら笑った。
「まあ野暮は言いませんよ。いずれにしろご無事で何より」
副長の済ました物言いに、ベルナドットは顰め面で咳払いした。
「どうせ昼は動けねぇ。俺も一眠りするわ。夕方頃に迎え頼む」
「了解」
あ、と思いついたようにベルナドットは恐る恐る切り出した。
「ボスは何か言ってたか?」
「そりゃもうおかんむりで。出てったきり戻ってこない鉄砲玉を雇った覚えはない、てなもんで」
うへえ、とベルナドットは口をへの字に曲げて頭を抱えた。
「今夜は一晩中説教か?」
「天国と地獄ですな」
「うるせぇよ・・・・・・・あ?」
苦笑を浮かべたベルナドットの視界に、黎明の空をひらりと飛ぶものの姿が映った。
「どうしました?」
「いや、随分早くに飛ぶ鳥がいると思ってよ」
電話の向こうは怪訝そうな声を出す。
「こんな早くに鳥は飛ばんでしょう。蝙蝠かなんかじゃないんですか?」
「さてな・・・」
蝙蝠とすれば、嬢ちゃんのお仲間か。
ベルナドットはくるりと身を翻し、窓の桟に浅く腰掛ける。視線の先には、規則正しい寝息をたてて眠るセラスの姿がある。
その余りにも無防備で安らいだ表情に、ベルナドットの顔に自然と笑みが浮かぶ。
「・・・・以外に、青い鳥かも知れねぇぞ。幸せの、な」
「は?」
「何でもねぇ。切るぞ」

柄でもない。益体もないことを口走ってしまった。ベルナドットは照れくささと苦笑がない交ぜになった複雑な顔で、頭を掻きながら編んだ髪を解いた。
人と吸血鬼。交わるはずのない者同士が交わって、果たしてこれから一体どうなるのか、皆目見当がつかない。
それでもいいか、とベルナドットは欠伸を噛み殺した。どうせ何が起こるか分からない世界に足を突っ込んでしまったのだ。先のことはその時考えればいい。

さて、俺も一休みさせてもらうかね。
下手したら黄色い太陽を拝むことになっちまう。ベルナドットはしっかりと雨戸を閉じると、小鳥の眠る巣へとその足を向けた。