「あんなことしたのインテグラ様に知れたら大目玉ですね」
車へと戻る道すがら、首を竦めながらも、セラスはそう言って可笑しそうに瞳を巡らせた。
口の端に咥えた煙草を持ち上げると、ベルナドットは共犯者の笑みを浮かべる。
「絶対内緒だぞ。互いの為にな」
「はい!」
にしても、とベルナドットは苦々しげに呟く。
「あんの餓鬼供。ちょっといい雰囲気になってきたって時に邪魔しやがって」
ぶつくさと文句を垂れ流しているうちに、車を停めていた場所へと辿り着いた。
運転席のドアに手をかけたベルナドットが、何かを思いついたように、助手席へと回ろうとしていたセラスに声をかける。
「嬢ちゃん、ちょっとちょっと」
運転席に乗り込みながら手招きするベルナドットの元へ、セラスがとことこと近づく。
「コート脱いで?」
「これ、ですか?」
不思議そうに目を瞬かせながらも、セラスは素直にコートを脱ぐと、シートから伸びた手にそれを渡す。
受け取ったコートを後部座席へ放り投げると、ベルナドットはシガーボックスに煙草を押し付けた。
「もう一つ、内緒の話があったの忘れてたわ」
そう言ってベルナドットは人差し指でセラスを招く。
「何ですか?」
煙草の香りのする口元にセラスが顔を寄せたその時、ベルナドットはセラスの腰に腕を回すと自分の座る運転席へと引き込んだ。
「えっ、なっ・・・!?」
ベルナドットの上に腰かけた格好で背後から抱きすくめられ、セラスは絶句する。
勢いよくドアを閉めると、ベルナドットはシートを後ろへスライドさせた。
「ここは気分を改めてってことで」
目を白黒させたせラスが振り返ろうとするのを遮るようにして、その首筋にベルナドットが唇を落とす。
耳元で響く低い声に、セラスの背筋が粟立つ。
「たまにはいいな。嬢ちゃんのこんな格好も」
ぺろりと右の人差し指を舐めて濡らすと、ベルナドットは両手をセラスのスカートの中に潜り込ませる。ゆるく広がる裾は、易々とその侵入を許してしまう。
「何たって触り易い」
くつくつと笑いながら、ベルナドットの手は遠慮なしにセラスの腿の撫ぜ、その中心へと向かおうとする。その意図に気づいたセラスが、慌てて身を捩る。
「おい、暴れんなって。何やってんのかと思われるぜ?」
自分のしていることを棚にあげ、ベルナドットはしれっとした顔でセラスを諭す。
「そ・・・んなぁ!」
岩場の影に停めた車は確かに人目につきにくい。だが、絶対に誰にも見つからないと言う保障はない。
逡巡するセラスの動きがふと止まった。その隙をベルナドットが逃すことはなかった。
両の腿と下着の隙間を縫うようにして節くれだった指が、女の秘めた部分へと侵入する。左の指が二本、閉じていた蓋を押し開くと、ベルナドットは己の唾液で濡らした右の中指を剥き出しになった中心にひたりとあてがった。
「―――っ!!?」
大きく震えた肩に顎を乗せ、ベルナドットはその動きを抑える。
「や・・・・ベルナドットさん・・・・ダメ・・・」
弱々しい呟きでセラスがふるふると首を振れば、柔らかな金髪がベルナドットの頬をくすぐる。
「・・・・・・んっ、ふ」
ベルナドットの指がささやかな粒をつるりと撫ぜれば、セラスは短い息を吐き、身体を強張らせる。
男の指先はまるで磨き上げるように、その表面でくるくると円を描き続ける。その刺激に身体が馴染み始めれば、当初の鋭すぎる快感は徐々に収まり、代わって蕩けそうなほどに甘い刺激がセラスの身体を支配する。
快感を吸い上げるようにして、立ち上がり始めた粒を弄びながら、ベルナドットは薬指をセラスの入口に伸ばす。そこは既にぬめる液体で満たされていた。
「相変わらず濡れやすいな。嬢ちゃんは」
薬指を体内に浅く潜らせ、ベルナドットはひっそりと笑う。
「そ、んな・・・・言わな・・・で」
掠れ声の懇願に、ベルナドットは笑みを深くした。
「喋ってねぇと余計恥ずかしいんじゃね?」
入口近くに潜らせた指で周囲を軽く掻き混ぜれば、くちゅくちゅと粘り気のある水音が湧き立つ。
「俺には堪んねぇ音だけどよ」
指先でセラスの体液をすくい上げると、ベルナドットはそれを快感に膨れた粒に擦り付ける。
二本の指に挟まれ、濡れた粒はいいように弄ばれる。セラスが喉を引き攣らせた。
それと同時に、左の指はセラスの中深くを犯し、更に体液を溢れさせた。
淫猥な水音が響く車内で、セラスは声を殺して快楽に耐える。
「・・・・んっ・・・・・は・・・あ」
時折、堪えきれないように零す喘ぎ声は、かつて耳にしたどんな女の声よりもベルナドットを昂ぶらせる。
「困ったもんだってぇの」
自嘲にも似た呟きで、ベルナドットは慌しくズボンの前を開けると、窮屈そうに納まっていた自身を取り出す。
掴んだ陰茎が濡れている。セラスの愛液の所為かと思ったが、そうではなかった。己が先端から体液を垂れ流していたことに気づき、ベルナドットは苦笑を浮かべる。
セラスの尻に左の手をあてがい、軽く持ち上げる。下着を引きずり下ろすと、ベルナドットは焼けつきそうなほどの欲望に満ちた先端をぬめる泉の元へとあてがう。
「来な。嬢ちゃん」
小さな吐息を一つ零し、セラスがゆっくりと腰を沈めていく。
窮屈な格好で重なるが故に、セラスの体内はいつにも増してきつく感じる。
気を抜けば呆気なく放ってしまいそうな圧迫感に脳髄が痺れる。それはセラスも同様で、抉じ開けられる快感に、切なげに細めた目じりに涙が浮かんだ。
互いにぎりぎりの状況の中、二つの身体が完全に繋がった時には、二つの唇から同時に溜息が零れた。
華奢な腰に左手を回し、ベルナドットが背後から耳打ちする。
「動いてみな、嬢ちゃんのいいように」
「ん・・・・・」
子猫のような声で鼻を鳴らすと、セラスがゆっくりと腰を上下させ始める。
衣擦れの音に繋がった部分が奏でる水音が混じり、そこから甘い快感がじわじわと広がっていく。
寄せては返す波のように、柔らかな尻がベルナドットの腿に触れては離れる。
「ひっ・・・あ!?」
ベルナドットの右手がセラスの前に回る。結合部を撫ぜ、湿らせた指先をすっかりと熟れた粒にあてがえば、セラスがびくりとその背を反らせた。
「あぁ・・・・」
吐息を零したセラスが動きを変えた。ベルナドットの指の腹にクリトリスを押し当てるように、腰を前後させる。
ベルナドットの大きく反り返った先端が、ヴァギナの前壁をこそぐようにして上下する。身震いするような刺激が二箇所から溢れてくる。セラスは熱に浮かされるように目の前の快楽を追って何度も腰を揺する。
「どこでんな動き覚えてきた? 嬢ちゃんよ」
からかう余裕も、口元に浮かんだ笑みも、すぐに消えた。
男にとっても敏感な先端を絶えず刺激され、ベルナドットは苦しげに隻眼を細め、ベルナドットは大きく息を吐いた。
「ど・・・しよ・・・・ベルナドッ・・・さん」
「どした?」
「気持ち・・・よくて・・・も、う」
震える両手が縋るようにハンドルを掴んだ。
「悪ィな。嬢ちゃん」
言いながらベルナドットは、セラスを抱え込むようにして挿入を深くする。
「俺も限界だわ」
ベルナドットが背後から強く腰を打ち付ければ、セラスの身体はハンドルに倒れ込む。
柔らかな胸にハンドルが押し当てられる。抱きかかえるようにしてハンドルを掴み、セラスは打ち込まれる楔を受け入れる。
荒々しい動きに、車が大きく揺れ、ギシリと悲鳴を上げる。人に気づかれるかも知れない。そのことも最早、思案の外だった。
追い詰められ、一点に凝縮されていく快感。
ハンドルに顔を伏せていたセラスが、大きく首を反らせる。
凝縮されていた快感が、大きな波を伴って解放されようとしていた。
瞑っていた瞳を開ける。闇に一際鮮やかな赤が、青い月を見上げる。
「出す、ぞ」
愛しい男の切なげな声に、吸血鬼はか細い声で鳴きながら透明な涙を零した。
「静かですね」
男の胸に背中を預けたまま、セラスが言う。
「そうだな」
小柄な身体を抱きかかえたままで男が応じる。
「服、汚れてませんよね」
心底心配しているらしい声に、ベルナドットが笑った。その声がひけば、車内は再び静寂に包まれる。
「波の音が聞こえます」
行為の最中はまるで耳に入らなかった波音。耳を傾ければ、今はよく聞こえる。
「そうか――」
ドアを閉め切った車内では、人であるベルナドットの耳には波の音は届かない。
「綺麗ですね。海・・・」
浜辺の向こうに広がる海。月の架ける橋は、まだ海面にたゆたっている。
「今なら渡っていけそうな気がする」
独り言のように呟いて伸ばしたセラスの右手をベルナドットが掴む。
一人でなど行かせない。
言葉にはせず、ベルナドットはただセラスの身体を胸に閉じ込めた。
青い光と温かな身体に包まれて、セラスは目を閉じる。
耳に届く波音は、まるで優しいメロディのようにセラスには思えた。
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